クロスバイクを買ったものの ②

 もう自転車屋には行くこともないかなと思ってそう月日も経たない頃、シートポストにサドルを固定するのは細いボルト、シートピン一本で固定してます。こんな細いピン一本で大丈夫かいなと思うでしょうが、全然大丈夫じゃありません。ぽっきり折れます。
 一度目はいつもの川沿いの自転車道を快調に走っていた時、突然ぐらりとサドルが揺れて後方へ落ちていきました。あわてて止まって確認しますがどうにもならないので立ち漕ぎしながら帰りました。
 8kmの立ち漕ぎによる帰り道は慣れないせいもあって太ももガクガクで、家に着くと倒れ込むように入りました。疲れと筋肉の痛みのせいもあって怒りのあまりB社サポセンに電話。ことの次第を説明すると
「それはあなたがボルトを締めすぎてたから折れたんですよ」開口一番これです。当社に責任はございません、といった態度。もしかしたら絶対に非を認めてはいけないといった通達でもしてるんでしょうか。
「まず怪我がなかったか心配してくれてもいいんじゃないの?バランス崩して倒れたら車に引かれて死ぬ可能性もあったのだから」標準語で言うとそんな意味のことを強い口調で言うと、あわててスットンキョーな声で「お怪我はございませんでしたか」
でもそれだけで、決して非は認めようとはしなかった。あげくにシートポストのピンが折れるなんて前代未聞、当社でそのような苦情は一切聞いたことがありません。と、B社始まって以来の珍事だそうで、たいそう相手方は驚いておられました。そうかと言って、前代未聞の出来事なのでぜひ折れたピンを厳重な調査をしたいので送ってくれと言われることもなく、ありえないとの一点張り。
その頃ビアンキクロスバイクでフロントフォークのスっぽ抜けで重症を負った事例で、輸入会社に多額の賠償命令が下されましたが、そんなことと関係でもあるのでしょうか。
まああきらめて販売店に行ってシートピンを頼むついでに店長に電話のやり取りを伝えて同情を誘うと「駄目ですねそういう言い方は良くない」 
店長の言葉に少しほっとしました。

 シートピンもなかなか入荷しないので同型の車種から譲ってもらった。今度は締めすぎないように注意するが、緩めに締めるとどうしてもすぐズレてしまう。少しづつ少しづつ調整しながら細心の注意をはらって締め込む。なにしろピンを折ったのは世界で俺だけなのだからよほどひどい締め方をしたに違いない。トルクレンチこそ使わないが普通の人間らしい締め方をこころがけた。

 細心の注意を払ったにもかかわらず再びピンが折れたのは1年ほどたった頃のことです。今度は交通量の多い国道でした。2度目なのですぐハッとして止まったので落車や事故はなかったものの心底肝が冷えました。今回は注意深く本当に緩めギリギリで調整していたのに。メーカーに連絡しても、また世界に一人だけの馬鹿、とあしらわれそうなので消費者の味方である販売店に電話をかける。
店長は開口一番、「ああ、それはやっぱり締めすぎですよ」
がっかりした。

 例によって半月経っても入荷しない。予想通りなのでホームセンターで買った同サイズのステンレスボルトを応急的に使ってみた。むしろ調子良いくらいだ。それでもステンレスは曲げ剛性に関して不安なので、ヤフオクでとチタン合金のピンを送料込みで千円程度で手に入れる。品質的にはどこまで信用してよいかわからんけどB社のよりはマシだろう。まあうまいことにこれは5年乗っても折れなかった。予備で用意したピンも出番がないままシートポストはいよいよグラグラしだしてオシャカになった。
 新たに入れ替えたシートポストは中古だが2ピンタイプで安定している。一本折れてもいきなり外れたりはしないので安心して乗れる。最初のシートポストを見ると、一部ギザギザ部分が黒くなっていて山が減ってツルツルだった。それなりの品質だったに違いない。中古で1500円で解決するなら最初から交換すればよかった。いや、販売店でちゃんとチェックしてくれれば……せめて長い経験と知識からくるアドバイスが欲しかったなぁ。

 数年後ロードバイクを買ったときは、はじめからシートピンの予備が入っていたので驚いた。B社と違ってP社のピンは折れてしまうらしい。まったくもって信じられないことだ。世界に一人だけの馬鹿男としてちょっとは自慢でもあったのに、しょせんはB社基準だったってわけだ。世界は広い。


 結局自転車屋さんもピンキリです。知識も技術もあって良心的な店は少ないのかもしれません。
親の店をなんとなく継いだものの、少子化に伴い、子供や学生の自転車販売数は分母そのものが減ってる。そこへきて自転車購入は近所のホームセンターか大型店か通販による低価格車が主流で、街の自転車屋さんで高い国産を選ぶ人はわずかかもしれません。
それでも信頼して個人店へいったのに低知識と低技術とやる気のなさで逆に壊されたりしたら二度と自転車に乗ることすらイヤになるでしょう。
確かな技術と丁寧な対応で自転車に乗る人口が増えるのにもったいないことです。
まずはメーカーから小売店の改革にあたってくれないかなと思うけど、世界でおまいだけなんて言うのがメーカーならそれも望み薄。あらたに立ち上げたラインナップも芳しくないのか2年ほどで廃止になったようです。
グリップが痛くて相談したときも「スポーツバイクはそういうもの、乗り方がまずいんだよ」って言った店長、せめてパッド入グローブとか勧めてくれればよかったのに。自分でエルゴノミックデザインのグリップに変えて楽になったけど。
サドル位置が高すぎるって相談したときも「それが普通。慣れるしか無い」って、店長、俺の股下測ったの? まあやっぱり自分で調整したけどさ。
 最終的に自分で整備できるまで知識と技術をつけるのが一番なのかな。メンテ関連の本が一冊とネットがあればなんとかなります。私にはハードル高いけど自転車仲間を作るのもいいでしょう。
 現在は同じ町内で元実業団のバイク屋さんや、フレームビルダー経験20年の自転車屋さんに何かの折にはお願いしています。安心感が違いますので、あきらめずに納得できる自転車屋さんを探すべきだと思います。
 ちなみにシートピンは6年たった今も入荷の連絡がありません。