クロスバイクを買ったものの

  自転車は楽しいなとあらためて思った。中学卒業以来ほとんど乗ってなかったのを後悔した。
震災のあと、ダイエットやガソリン節約を兼ねて始めた自転車。職場までの移動や買い物はもちろん、サイクリングまで楽しめるようになった。
ママチャリでさえこれだけ楽しいのだから、スポーツバイクはどれほどだろうか。
 
  自転車雑誌を買いあさり、舐めるように読みふけった。選ぶ時間は楽しい。迷うのも極楽。数週間かけて選んだいくつかの機種も近所の自転車屋では扱いがない。しかし国内メーカーの新たなラインナップで扱えるようになったというクロスバイクをこれ幸いと注文した。通販や遠くの大型店じゃ修理とか整備に困るからね。
1割引で泥除けオプションつけて5万5千円。これでクロスのエントリークラスだが、自分にとっては十分すぎる動力性能に感じられた。なにしろ軽い、踏めば踏んだだけ進む、速さが違う。動力を一切使わず自分の体力だけで馬鹿速い速度で何十キロも遠くへいける。これほどの力が自分の中に眠っていたのかと感激する。自転車と一体のハイブリッド人間、サイボーグになった気分。700ドルの男(2011年10月レート)は夢中になってそれから毎日雨の日も風の日も走った。ひたすら楽しかった。
ただひとつ、販売店の対応が問題だったのをのぞいて……
 街の個人経営の店とかは普段はスポーツバイクを扱わない店なのだろう。それが自転車ブームにのったメーカーの販売戦略に乗せられて、慣れないジャンルの自転車を売ることになったのが問題だった。

 まずはパンクの頻発。パンクの主な原因は空気圧の管理といわれる。タイヤが段差などを乗り越えるときに空気圧が足りないと、ひしゃげタイヤがリムの両脇にぶつかりチューブに穴があく。
売店の店主も「空気圧ですよ空気圧」知らんのかおヌシ、といった態度でパッチを貼っていく。
だがタイヤについた破片、チューブのキズを見れば一目瞭然、リム打ちパンクとは違うのに店主は気付かないのだ。当時は震災後の小さなゴミがまだ道路脇に吹き溜まっていて、ガラスの小片や金属片、鋭利な小石などが散乱していた。走行性を重視した薄くて軽いタイヤは簡単に突き抜けてしまう。真っ赤な顔して空気圧を高めに入れていても、ときには一日2回パンクすることさえあった。自転車屋は良いが毎度となると修理代も馬鹿にない。パンク修理は自分で出来るようになり、アマゾンのレビューを見ながら選んだパンクに強いシュワルベマラソンのタイヤに付け替えてようやく泥沼から脱出できた。

 次は前輪のブレーキ鳴き。自分は我慢できても街中に響きそうなキーキー音は早朝の走りを憂鬱にする。店主もいろいろトーイン、トーアウトと調整するが効果なし。結局私の方からブレーキパッド交換を提案して少しグレード高めのに入れ替えてようやく鳴きやんだ。ところが今度は後輪の鳴きはじめる。これは自分でブレーキまるごと交換することで解決。
ネット検索と通販がこれほど役に立ったのは初めてだ。自転車トラブルの情報も解決策も、おすすめパーツも取り付け方法もすべて見つかった。

 ただ変速がスムーズにいかないのにはずいぶん悩んだ。通常は問題ないが上り坂では変速に反応せずギヤが変わらない。ママチャリの内装変速はペダルを踏まずにやるが、外装変速機は動かしながら変速する。そのていどの知識は自転車屋も教えてくれたものの、坂を登りきった頃にようやく変速が終わるのには困った。店主に聞いてもさっぱりまともな答えが帰って来ない。そうこうしているうちに変速機が壊れた。
 一度目は5月の連休に遠乗りしようと出かけたときだ。陸橋を越えようと踏ん張ったときにRD、後輪の変速機がスポークに引っかかって泥除けのステーとの間に挟まって折れていた。
二度目は連休明けに直った自転車で朝の散歩をしていた時、よれよれになっていたメーカーノベルティの裾バンドが剥がれ落ちて、チェーンを伝って交換したばかりのディレーラーに巻き込んだのだ。わずか2週間の命だった。

 さすがに新品に変えたばかりでまた交換は悔しすぎる。部品代と工賃で8000円を節約するためヤフオクで中古を手に入れた。変速機の取り付け調整はちと面倒だが「自分でやると意外と簡単」などと軽く煽ってくるサイトを参考にしながら紆余曲折を経てどうにか終了。
自転車屋のサイトで見る整備の解説は簡単そうに見えて不親切と思うのは自分だけなのか。
やってごらん、簡単だよ。おや出来ない?おかしいね簡単なのに、そうそれじゃしょうがないやっぱりプロに任せなさい、と言いたいがために解りづらく、手順を全部見せなかったり、ミスリードさせたりするのではないかと勘ぐってしまう。いいえ、そんなことはありません。好意で教えてくれるのです。私が理解できないのが駄目なのです。……多分
 なんのかんのでうまくハマったRDはMTB系では上から二番目のクラスのもの。最初についていたのは下から二番目のグレード。かなり使い込んでる気配だが正確さと丈夫さは噂通りで、素人の調整にもかかわらずサクサク変速が決まった。上り坂でも間をおかずにその場でスパスパ決まる。「RD変えてもそんな変わんないよ」一度目のトラブルのときにグレードをあげたらどうかと提案した私に店主はそう答えた。
嘘だった。劇的変化である。

 調整も自分でコツコツやったほうがしっくりいく。自転車屋に行く暇がなくってもすぐ直せる。パーツも通販の方が安いし早けりゃ次の日到着。平気な顔で2週間も待たせる自転車店よりストレスフリーで健康にもいい。

 しかしいい気になっていたのもわずかな時間で、ある日別件で自転車屋に寄った時にちょっと自慢げに交換したRDの話をした、安く簡単に交換できてどれだけ性能が上がったかを自慢げに語った。
しかしそれを聞いた店長は「こりゃ駄目だよ。なってない」
そう言われれば不安になって調整を頼む。もちろん別料金だ。「これでいいよ」素人は手を出しちゃいかん、といった感じで調整を終えた店長はドヤ顔で私を見た。
その数日後、坂を登りきったところでガシャと不吉な音が……
三度目のRDトラブルである。丈夫さを謳うだけあってRDは位置も形も変わらずにいたがホイールのスポークが何本か曲がった。すぐに店に持ち込んで状況を説明し「整備したばかりなのになんででしょうね?」店長が調整した後は一切いじってないし彼の調整不備を疑いつつさりげなく尋ねる。「さあ?なんだろうね」彼はそういってすぐにスポークを手配するとだけ答えた。まあスポーク交換だけで済むならよかった、責任追及はあきらめよう。
無駄に特殊な形状のスポークだったようで、これが半月たっても入荷ナシ。しびれを切らして自分でホイールごと手配したいと話すと、店主もこれ以上待たせちゃ悪いと感じたのかあっさりOKをもらう。当然だよな、どこまで気を使うんだ俺。二日後、通販で届いたホイールを抱えて店に寄ると「スポーク入りましたよ」と無駄に明るい店長の笑顔が憎らしかった。
まあしょうがないので新しいホイールにスプロケを付け替えてもらい、入荷したスポークの料金と高めの工賃を払って帰って来ました。
 ホイールはついでに前後ともWH-R501に交換しました。コイツは少々重いもののエントリークラスのロードバイクにはほとんど装着されているほどコスパが良いと言われるものでした。なるほど走ってみるとスピードがのったときの加速感は優れています。この気持ちよさは変えてよかったと高い満足感がありました。
それにしてもスプロケ交換の工賃も合わせると1万8千円ほどの出費。もうこれ以上あの自転車屋には行くまいと決意しました。