花登筐の銭の花(細うで繁盛記)

  とりあえず面白そうだから読んでみようとかじゃなくって、話題になってるものや映画化ドラマ化したものなんかの話を聞いてから手に取ってみる。

去年だと「老後の資金がありません」の谷垣美雨とか。それをほとんど読んでしまって今年になってからは「3千円の使い方」の原田ひ香のを読みまくった。(この人の文章は好き)なんとなく手に取ってみて面白かったのは秋吉理香子のミステリーかな。

 アンソロジーなども読んでみるが気に入った作家さんにはそうそう出会えない。

 

 そんなんでふと花登筐が読みたくなった。「はなと こばこ」→花、登る、筐体(きょうたい)と、グーグル検索でない時はいちいち面倒な入力をしなきゃならない。

狙っているのは「銭の花」細うで繁盛記の原作本である。

最近だと沢口靖子主演でリメイクされたが1970年当時の放送に比べると妙に明るすぎて残念である。

 「銭の花」は何種類かでているようで10巻揃いを買えばいいのだろうが今の時点で売り物がない。とりあえず値ごろな上、中、下(一~四)の六冊と、7、8巻を手に入れた。

 大阪の高級料亭「南地楼」の創業者女将を祖母に持つ加代。祖母が亡くなり、南地楼も落ちぶれて騙されて嫁に行った先の「山水館」で舅、小姑、旦那までも敵に回して奮闘する話だが上中下巻ではきれいにまとまっている。7、8巻は改心したかに見えた義姉正子が舞い戻り、その策略で山水館を追い出されたところで終わっている。

これはなんとしても次が読みたい。しかしネットフリマもオクも古本屋サイトどこにもない。

読みたい読みたいとなるとどうにもとまらない。確定申告の貸借対照表の数字がおかしいのだがそれを放っておいて探している。

 ネットで県内の図書館を探すと1~10巻まで会津若松にあるのを確認。しかし須賀川図書館で上中下と9巻10巻が見つかった。ネットは便利だ。古本も探しやすいし、図書館の蔵書も自宅にいながらにして探し出せる。

まあコツコツ古本屋や図書館を巡り歩くのも楽しいし、何年もかかって探しだしたときの喜びはいいもんだけど、残り少ない人生なのだからここはネットに頼らせてもらおう。

 新しくなった須賀川図書館を利用するのは初めてだ。ウルトラマン通りを北に向かいガラモンだかピグモンだかの哀愁のある背中を右に見てから左側だ。満車の看板が出ているがすぐに一台出てきたのでタイミングよく入ることができた。一応市内中心部なので2時間だけ無料駐車ができる。

しっかし、きれいででかい。市民交流センターとして多くの人が訪れている。

 正面から入ると何故かゆがんでいるホールが目に付く。一緒に来た母が倒れはしないかと心配で振り返るとやはりフラフラしていた。何のための傾斜なのか。地震の被害?遊水地なのか、今日は手作り小物の販売をしているが、時にはパターゴルフのイベントでもするのか?とにかく不思議な空間だった。

 広い。吹き抜けの効果もあって実際より広く見えるのかもしれない。3階の図書館を延々と歩く。書架の圧迫感も少なく心地よい空間だ。書庫の本を借りるために4階への階段を上る。妙に長い?息切れがする。ふと見れば天井高もぐっと高いような気もする。4階にはその日は空手教室もあったようで筋骨隆々の指導者さえもエレベーターで上がってくる。なるほど、この建物を4Fまで階段使ったら鍛えぬいた空手家でもぶっ倒れてしまうだろう。

 一部は地熱エネルギーも利用しているらしいが、この原油高のご時世この広い空間の冷暖房費がどれほどかかるのか想像するだけでチビりそうだ。須賀川市の財政は大丈夫なのかいらぬ心配をする。

 「なんかあちこち破れや汚れがありますけど、そのまま返却してもらってけっこうですよ」

ようやくたどり着いた4階の書庫カウンターで目当ての本を出してもらった。なるほど職員が恐縮するのも道理、書庫から出てきた本は「かなり状態が悪い」といったところか。これなら他の巻の状態も想像がつく。7,8巻がないのは多分擦り切れてしまったか汚れがひどくて廃棄されたのかもしれない。あるいは震災で崩れたときにバラバラになったかもだ。とくに9巻の汚れはひどかったが読めるだけありがたかった。この状態でよくぞ廃棄されずに残っていたものだ。

 外に出てあらためて建物を眺める。昔は赤トリヰ(←これも変換がやっかい)と郵便局がならんでいたんだっけ?高校時代は毎日のように眺めていた景色なのに、あたりの景色も様変わりしていて記憶を呼び起こすこともできない。明治維新の頃に安積疎水に尽力した小林久敬の実家である駅逓があったのがこのあたりなのか。今車が並んでいるところへ馬が並んでいたのかもしれない。

 パーキングの精算機を操作すると、それだけで時間内なのでロックが外れた。受付の美人のお姉さんが言ったとおりだ。

 

 急いで家に戻って読み始める。

この作家さんの本は一気に読めてしまう。しかし10巻は長すぎた。土肥へ流れてからの展開も濃すぎて何が何だか落ち着かない。最後も一気に終息へ向かって超展開で片が付いていく。ここまでやるなら南地楼の再起成功まで見届けたかった気もする。

 読み終えてから10冊並べて感慨にふける。

いやそんな場合ではないのだ。確定申告が途中なのである。いくら調べても合わない科目をまた調べなければいけないのだ。

現実逃避の時間は終わった。また痛む腰をかばいながらパソコンへ向かい、いつ終わるとも知れぬ作業に没頭するのだ。

 かなり古い本は揃ってるときに手に入れとかないと巻が抜けたり、違う出版社のでダブったり無駄がでてくる。

あと5年後、2028年は花登筐の生誕100年なのでもしかしたら新たに全集とか出たりするかもしれない。それまで元気でいられますように。