おら誘拐なんて…~マヤ~短編集モザイク

 三浦哲郎の短編は本当に短い中にたっぷりとぎゅうっと作者の思いが詰められているようで胸をじんわりさせるような作品が多い。わかりやすい感動的な結末があるわけでもない、ほんの日常のひとこまを描いているような短編なのに、妙にハマって何度も読み返してみたりする。読み返すたびに小説には書かれていない細かい部分を想像したりして飽きない。
 「マヤ」は東北の田舎から出てきた青年が家出少女マヤと出会う話。
ちょっと大人びたような少女「マヤ」が見知らぬ青年にませた口をきいて振り回す、それでも時折子供の弱さから甘えるような様子がなんともいじらくてかわいい。こんな子だったら連れて行きたくもなるのは仕方ないと思えるくらい作者の描写は巧みだ。作中の青年も継母に馴染めずに家出した少女を自分の郷里へ連れてかえってしまう。
とつぜん少女を連れて帰ってきた青年に家族は仰天する。「おらの嫁だ」と紹介する息子に呆れる家族。
通報したのはやはり両親か、逮捕される時に「おら、誘拐なんて…」抵抗する青年が哀れだった。
両親と一緒に帰る電車の中。「何が食べたい」と聞く継母に少女は「卵焼き」とだけ答える。
少女が思い出すのは青年のことではなく、落としても割れないくらいに強い殻をもった健康な地鶏の卵だった。

 小山市の35歳の男が大阪の少女誘拐で逮捕された。彼はどういう気持で少女を連れ去ったのか。純粋な動機ばかりだったとも思えないのはオレの心が汚れているせいか? でもスマホや靴を隠すのはおかしいよね。他に15歳の少女や複数のSIMカードが見つかったというし、闇は深そうだ。
「マヤ」を連れ去った青年、通報されなかったとしても良い結末が待っていたとも思えない。三浦哲郎の小説は悲劇的な結末が多いからハッピーエンドは考えにくい。
今回の誘拐はSNSも悪い的な風潮だけど使い方次第なんだけどね。
自分はいまだにガラケー使いなので少し安心ではある。