3万円のアイソトープ検査はキャラメルの香り

 アイソトープとか言っても宮沢賢治のゆるやかな世界とは趣を異にして、血管内に放射性元素を入れて心臓の動きを見るとか恐ろしい検査なのだ。心臓のステント治療から半年経ったので再狭窄やほかの部分の動脈硬化などが無いか入念に調べるらしいのだ。

先月、検査の説明の時に、健保だと3万以上かかりますよって言われて気が遠くなって放射性云々の詳しい説明は聞こえなかったのだ。

体に影響のないものですよ、さらりとそう言った看護師の表情が微妙に曇らなかったか?って、気の廻しすぎか。

心電図モニターをつけるので上半身は下着を脱いで病院パジャマだけ。その朝はこの冬一番の寒さとか。俺の布団で寝ていた猫を外へ出して出かけようとしたら猫はすぐに舞い戻ってきて一目散に布団へもぐりこんだくらいだ。

 

 深呼吸はしないで、動かないで、厳重注意を受けて心臓の撮影。30分は思ったより早く過ぎた。

次は自転車漕ぎ漕ぎ。車輪の無い自転車を漕ぐことで負荷をかけて心臓の動きを見るやつだ。おもわず感動に打ち震える。なにしろ11月も半ばからは寒くなったので早朝の自転車トレーニングは一切やってないのだから。

初めて乗るのでワクワクする。こいつは母がリハビリでやらされてくたくたになって泣きながら電話してくるやつにちがいない。この際、母の仇をうってやろうと心に誓う。ぶん回して破壊するつもりで廻し始めるが、「そんなに頑張らなくていいですよ、ここまでここまで」そう言って看護師の指さす先は60を示してる。ケイデンス60かい? ロード乗りを嘗めとりゃせんかい?

最低でも90回/分で廻さなきゃロード乗りの片隅にもおけないだろ。パナモリのオーナーだぜワシは。ママチャリもタイヤはミシュランに変えて絶好調だ。猪苗代のイベントじゃ箱根学園と激しいバトルを繰り広げましたから、まあ俺様の敵じゃぁなかったけど、もっと行けますヨ、まだまだこれから…

そんなことを考えながら漕いでると先生から、そろそろ終わりですねって止められて二度目のイーハトーブじゃなくてアイソトープ注入。再び漕ぎはじめて間もなく終了。あっけなく終わった。

ギリギリまで攻めてもう走れない、倒れそう、一歩も動かない、と思ったところでもうちょっと頑張るとセカンドウインドが吹くんだよ、そして覚醒したかのごとくより力強い走りが生まれるってわけ。それからなんだよ勝負は。もうちょっとやらせてくれ。先生に言いたいことは山ほどあったけど検査が終わると忙しそうに消えていった。

血圧計を見ながら負荷を調整してますからちゃんと正確な結果が出ますよって説明する看護士。いやいやそれよりも物足りないんだよケイデンス120、180、いくらだっていけるのに、バク転こそできないが身体能力と歌唱力は吉川晃司を超えるかもしれんのだ。わかってくれ。

 

 俺の心の悲痛な叫びを無視して二度目の心臓撮影.

深呼吸はしないで普通の呼吸をしてくださいね。

途中でくどく言われる、おかしいのか俺の呼吸? 普通の呼吸ってなんだ、考えれば考えるほど呼吸が乱れてくる。ちゃんと撮影できてるのかな。「フツーの呼吸!」だめだうまくいかない。鬼滅の刃読んでおけばよかったのか。不安を感じつつ検査終了。

国保割引の28,500円を支払って病院を出るともうお昼過ぎ。今頃猫が目覚めて家の中をうろついているころだろう。急いで買い物をすませて家に帰ると、待ってましたとばかりにドアを開けた瞬間、猫は外へ飛び出していった。

 検査前に、心臓以外にも肝臓とかにもいろいろ放射線が集まるので、それを散らすために食べてくださいってもらったキャラメルがやたらに美味しかった。朝食抜きだしね、よけい。

 

 あとは30日の検査結果を聞くだけだ。その翌日は宅建試験の合格発表。待たせすぎだよ実際。母の退院はその翌週。すべて良い結果がでて、いいことづくめで良い正月が迎えられますように。