白鳥にエサを  猪苗代~大池~高野池

 開通したばかりの鳳坂トンネルを通ろうとしたら間違えて猪苗代へ出てしまった。

せっかくなので長浜まで走ってカモに会いに行った。

その日は駐車場に集まっていて人間など気にせずに自由に歩いているのでこっちが気を使って踏まないように注意して歩かなければならない。

大量のカモが足元でうごめいているのはカワイイ。途中のコンビニで買った食パンはまたたくまに無くなって、ちょうど雪も降ってきたのでノーマルタイヤでそそくさと帰ってきた。

 翌週午後が空いていたので矢吹町の大池公園まで車を走らせる。前日スーパーで買った安売りの食パン8枚切りをかかえて降りる。

白鳥だけでない、カモもいる、サギもいる。白いのもグレーのもいろいろだった。

なるほどハクチョウはけっこういるもののエサをあげてる人はいない。池のたもとでバックに手を入れてもぞもぞしている女性がいたので聞いてみると、エサをあげたいのだけれど人目が気になって躊躇していたらしい。

なるほど、駐車場には野鳥への餌付け禁止の看板があった。

しかし、まてよ、以前来たときは餌やり推奨の看板があったはずだがと思い出し、記憶を頼りに池を廻り始めると日本庭園の付近にでかい看板が立っていた。

「餌をあげるときは同じ服装でくるといい」などと親切な看板だ。

これはどういうことなのか?

いわゆる「ダブルバインド」(二重拘束)の罠である。

ふたつの矛盾したメッセージで、どっちにしていいかわからずにパニックになったり、精神が崩壊したり、ひきこもりになったり、萎縮性胃炎から逆流性食道炎になったりすることらしい。胸やけがしてすっぱいものがこみあげてのどのあたりがつかえる感じでこれは本当にきついのだ。胸痛がすると、また狭心症が再発したのかと担当医にくどくど説明して困らせてしまったりする。

都市計画課に電話してどっちにしていいのか聞いてみようとも思ったが、役所の人間とうまく話すのが苦手なので放っておくことにした。

そう、近くにも白鳥の飛来地で有名な高野池があるのだから。

 

 大池から車で郡山方面に向かうこと数キロ、訪れるのは20年ぶりくらいだが注意していたので看板を見逃すことはなかった。中途半端に道を知ってるとナビを使わない。でもあやふやなので、しっかり迷ったりするのだが今日のところはうまくいった。記憶と違うのは新しい駐車場ができていたこと。なるほど広い駐車場から池全体が見渡せるようになっていた。

 

しかし白鳥の姿はない。鴨ばかりである。カメラを据え付けて撮影をまっている人に聞くと池の奥のほうにいるらしい。残念だがスマホ依存症で乱視のひどくなって信号の矢印さえ見えなくなった俺の視力では確認できない。

それでもせっかく来たので食パンはカモに全部あげてから立ち去ろうとするときにカメラマンが声をかけてきた。

時間帯があるんだそうだ。白鳥たちの食事時間だ。午前中11時ごろが狙い目らしい。礼を言って車を出す。

 

  数日後、午前中にでかける。到着は10時半。なるほどカメラマンの言ったのはウソではなかった、数十羽の白鳥がワサワサしているのだ。ガードを乗り越え、ちぎった食パンを金網ごしに思い切り放る。白鳥の群れの真ん中くらいに落ちるように全力で投げる。めっきり力が衰えているので狙い通りにはいかないが、それでもちょうどいいくらいに手前の群れの真ん中に落ちる。

どんどん鳥が集まってくるのが楽しい。夢中になってふたりで8枚のパンを消費するのにそう時間はかからなかった。

その間にも車が2~3台止まってはチラ見して去っていった。

エサをやり終えて帰ろうとする頃に訪れた二人組は、駐車場の東の端に車を止めるとガードレールの終点から入って桟橋へと歩いて行った。なるほどエサやり用の(観賞用)のステージがあるらしい。

鳥たちもわかっているのか、人が桟橋に立つとあっというまにそちらめがけて泳ぎだした。ひとことも礼を言わず、お辞儀もせず芸も見せずにだ。

もらうだけもらって終わると知らんぷりで帰っていくドライさはウチの猫なみだ。

でもかわいいからまた来よう。